2019年6月26日、ZOZO(3092)の第21期有価証券報告書が提出されました。
ZOZOの事業といえば、あのZOZOTOWNです。いまや日本のファッション業界において、いやファッション業界以外でも有名です。
最近では社長の前澤氏が宇宙に行くことを発表し、Yahoo!日本法人に買収されることが発表されたことでも話題となりました。
このZOZOですが、今期及び経年の財務諸表を見ると、下記2つの状況が見えてきました。
・売上高は年々増加しているものの、経常利益・純利益に大きな変化が表れていない。
・総資本に対する流動負債と株主資本の割合が前期と今期で大きく変化した。
これが何を意味しているのか。ZOZOの状況を財務諸表の状況を頼りに分析します。
※記事に記載している数字について、記載がないものは全て[百万円]です。
売上増加と営業利益率停滞
損益計算書から見えてくるもの
これらは損益計算書の数字をグラフで表現したものです。
まず経年比較のグラフに着目すると、売上高、売上総利益ともに年々上昇しているにも関わらず、営業利益からの利益に変化が見られないことに気づきます。
この状況は今期の損益計算書グラフを見ても明らかで、売上総利益から営業利益にかけての利益率の減少が顕著です。
ZOZOの損益計算書をみる上で、この大きな変化の原因を知ることは一つのポイントになりそうです。
営業利益が伸びない原因は?
販売費及び一般管理費に含まれる科目のうち、金額の大きいものから3位までが全体のどれくらいの割合を占めているかをグラフ化してみました。
「その他」と「荷造運搬費」だけで全体の50%以上を占めていることが分かります。
次に、「その他」と「荷造運搬費」に着目し、これらの売上高に対する割合が経年でどのように変化したかをグラフ化してみました。
売上高に対してほとんど同じ程度の割合(やや微増)で経年推移していることが分かります。
ここで一番最初に提示した損益計算書(経年比較)グラフに戻るのですが、売上高は年々増加しています。
そして、年々増加に比例して増加している「その他」や「荷造運搬費」は変動費にあたることが分かります。
この大きな変動費の発生が、営業利益以下の利益が増加しない原因になっているようです。
いくら売上高が増加し続けていったとしても、最終的な利益が伸びなければいつか行き詰ってしまう不安が残ります。
貸借対照表に現れた財務状況の変化
流動資産と株主資本の割合が逆転
今期の貸借対照表を見てみると、流動資産と流動負債が大きな割合を占めていることが分かります。
流動資産、流動負債ともに大きいため、流動比率も111.0%と、決して良い数字とは言えません。
この流動比率が低めな状況について、ZOZOの「いつも通り」の財務体質ではないということが経年比較グラフを見て分かります。
実は前期まで、ZOZOの流動負債はそこまで大きくなかったのです。それが今期になって、流動負債の増加と株主資本の減少が突如として出現しています。
逆転現象の原因は?
このような財務状況の変化が発生した原因を探るため、前期と今期の貸借対照表を比較し、大きくお金が動いている科目を調べてみました。
すると今期、220億円の短期借入金が負債の部に計上され、240億円の自己株式の取得が純資産の部に計上されており、この金額が逆転現象に寄与しているようです。
第20期 | 第21期 | |
短期借入金 (負債の部) |
0 | 22,000 |
自己株式の取得 (純資産の部) |
0 | △24,412 |
財務諸表に記載されている短期借入金に関する注記をみると、短期借入金の目的は運転資金を効率的に調達するために締結した当座貸越契約及び貸出コミットメント契約を実行したものとされています。
当社は、運転資金を効率的に調達するため、取引銀行と当座貸越契約及び貸出コミットメント契約を締結しております。これらの契約に基づく連結会計年度末の当座貸越契約及び貸出コミットメントに係る借入未実行残高は次のとおりであります。
「短期借入金」と「自己株式の取得」、一見関係無いように思える2つの科目ですが、あまりに同じような金額が動いています。
借金をして自己株式を買ったとも見えかねない印象を受けます。
キャッシュの状況確認
営業活動によるキャッシュフローは安定的にプラスを出していますが、最終的に残った現金がプラスだったりマイナスだったりとフラフラ動いている状況のため、少し気にかけてみていく必要があると思います。
また、投資活動があまり活発に行われていない印象を受けるのも気になります。
買収劇の裏で見え隠れする利益の伸び悩みと財務状況の変化
売上高は順調に伸びていますが、それに比例して販管費も増えているため、営業利益からの利益が増えていないことを確認しました。
利益自体はしっかり出し続けられているのですが、成長という意味では思うように言っていない印象です。
また今期の貸借対照表において、「短期借入金の増加」と「自己株式の取得」に大きな額が計上されていることを確認しました。
この変化に対するZOZOの本当の目的がどこにあるのかについて、確かなことまではわかりませんが、ほとんど同じで大きな額が、これら2つの科目間で動いている事実は、まるで借金をして自己株式を取得したかのようにも見えてしまいます。
Yahoo!日本法人による買収が発表されたZOZO。今期発生した財務状況の変化と何かしらの関連があるのか。今後の経営の動きに注目したいところです。